文:YAGINUMA

近年、商品写真の仕上げにAI生成を使う選択肢が広がってきました。「もうAI生成でいいのでは?」という声を耳にすることも増えています。

しかし、レタッチとAI生成は、似ているようで根本的に目的が異なる作業です。そして目的が違えば、そこで求められる「精度」の意味も変わってきます。今回は、この2つの違いを整理してみます。

目的の違い:何を写すか、何を作るか

レタッチとは、実在する被写体(商品)の魅力を最大限に引き出す作業です。すでにそこにある商品を、どう美しく、どう正確に見せるかを考える作業といえます。

一方でAI生成は、存在しない、あるいは理想化されたイメージを作り出す作業です。手元に実物がなくても、あるいは実物とは異なる理想の状態を思い描いても、それらしい画像を生成できます。

つまり両者は、「何を写すか」ではなく「何を作るか」という出発点からして異なります。この前提を理解しないまま比較してしまうと、「AI生成の方が便利」「レタッチの方が丁寧」といった単純な優劣の話にすり替わってしまいがちです。

目的の違いが生む、精度の違い

レタッチの目的が「実物の再現」である以上、そこには元の商品と寸分違わない色味・質感を再現する精度が求められます。発注者が思い浮かべているのは、あくまで「手元にある、あの商品」そのものです。

AI生成は、そもそもこの「実物との一致」を保証するようには設計されていません。目的が「理想的なイメージの生成」である以上、精度の物差し自体が異なるのです。どちらが優れているという話ではなく、精度が測っているものが違う、というのが正確な理解だと思います。

具体例:金属・工業製品での誤差

この違いが特に表れやすいのが、金属や工業製品の写真です。

AI生成は、生成のたびに結果が微妙に変わります。金属特有の反射の入り方やハイライトの位置、質感の再現度は、生成ごとにブレが生じやすい部分です。その結果、発注者が思い描いていた実物の印象と、AI生成で仕上がった画像の印象がずれてしまうことがあります。

これは、EC担当者やカタログ制作の現場では見過ごせないリスクです。「届いた商品と、掲載していた写真の印象が違う」というクレームは、信頼の毀損に直結します。実物の忠実な再現が求められる場面では、この誤差そのものが致命的になり得るのです。

「嘘のない写真」が企業の信用になる

もうひとつ見落とされがちなのが、企業として商品写真を掲載する以上、そこに嘘がないことが信用そのものになるという点です。実物と異なる印象を与える写真は、短期的には見栄えが良くても、長期的には「話が違う」という不信感につながります。

そして最近では、「AIっぽさ」自体が敬遠され始めているのも事実です。過度に整いすぎた質感や、不自然に理想化された仕上がりに対して、見る側が違和感を覚えるケースが増えています。AI生成が身近になったからこそ、逆に「AIらしくない、実物に忠実な写真」の価値が上がってきているとも言えます。

だからこそ、実写(レタッチ)とAIをどの比率で、どこまで使うかという判断は、最終的にはレタッチャーの目と経験に委ねられる部分が大きくなります。何をどこまでAIに任せてよく、どこは実物の再現にこだわるべきか。この線引きこそが、単純な自動化では代替できない、レタッチャーの専門性そのものです。

どちらを選ぶべきか

整理すると、判断軸はシンプルです。

  • 実物を正確に見せたい → レタッチ
  • 理想やイメージを作りたい → AI生成

とはいえ実際の現場では、この2つはどちらか一方を選ぶというより、目的に応じて使い分ける、あるいは組み合わせるケースが増えています。そしてその配分を決めるのは、最終的には経験を積んだレタッチャーの判断です。

Retouch Studio SANKAKUYANEでは、この考え方をもとに、完全手作業の「クラフトレタッチ」、実写とAI生成を組み合わせた「デュアルレタッチ」、AI生成による「ジェネレートレタッチ」という3つのサービスをご用意しています。目的に応じた最適な手法を選んでいただけるよう、それぞれの特性を活かした仕上げをご提案しています。