文:SAKAI

商品写真のレタッチのなかでも、金属・工業製品は難易度が高いジャンルとされています。食品や雑貨のレタッチでは問題にならない要素が、金属になった途端に仕上がりを不安定にする——そんな声を耳にすることがあります。

なぜ金属は難しいのか。理由は、金属がそれ自体の色をほとんど持たない素材だからです。

なぜ金属のレタッチは難しいのか

金属の見た目を決めているのは、金属そのものの色ではなく、周囲の環境が反射して映り込んだ像です。白いものが近くにあれば白く写り、天井が暗ければ暗く沈む。撮影スタジオの什器や、撮影者の姿さえも表面に写り込みます。

つまり金属を撮るという行為は、実質的には「その金属が置かれた環境を撮る」ことに近い。だからレタッチでも、単に明るさや彩度を調整するのではなく、映り込みの構造を理解した上で描き直す作業が必要になります。この点が、被写体自身の色を持つ食品や布製品との決定的な違いです。

表面処理ごとに、やるべきことが変わる

ひとくちに金属といっても、表面処理によって見え方の性質はまったく異なります。

  • 鏡面(バフ研磨):周囲がくっきり映り込む。不要な映り込みを消すと、今度は「金属らしさ」まで消えてしまう
  • ヘアライン:一定方向の細い筋目が命。ゴミ取りのつもりで修正すると筋目が途切れ、プラスチックのように見える
  • 梨地(ブラスト処理):微細な凹凸によるマットな反射。ノイズ除去をかけると質感が丸ごと失われる
  • アルマイト・黒染め:黒が締まりすぎて形状が消えるか、浮いてグレーに見えるかの両極に振れやすい

同じ「金属の写真」でも、鏡面でやるべき処理と梨地でやるべき処理は正反対です。素材の見分けがつかないままレタッチすると、質感が均一化して「安っぽい金属」になります。

現場で起きやすい3つの失敗

1. 映り込みを消しすぎる
不要な映り込みを丁寧に消していくと、金属は次第にのっぺりした灰色の物体になります。消すべき映り込みと、残すべき映り込みの判断が要ります。

2. ハイライトの連続性が崩れる
金属のハイライトは、面の曲がりに沿って一本の筋として流れます。部分的な修正を重ねると、この流れが途中で途切れ、形状そのものが歪んで見えます。

3. 複数カットの合成で色がずれる
工業製品は、最適なライティングが部位ごとに異なるため、複数カットを合成することがあります。このとき金属は少しの色温度差で別素材に見えてしまうため、合成部の処理に精度が要求されます。

生成AIで代替できない理由

金属は、生成AIがもっとも苦手とする被写体のひとつです。

理由は、金属の見た目が物理的に一貫した反射の結果であるのに対し、生成AIは「それらしい見た目」を出力する仕組みだからです。ハイライトの位置や反射の入り方は生成ごとにブレが生じ、実際の製品形状と整合しない反射が生まれることもあります。

カタログや製品サイトでは、この差が「届いた製品と写真の印象が違う」という不信につながります。実物の忠実な再現が求められる領域ほど、手作業のレタッチが残るというのが、現場での実感です。

よくある質問

Q. 撮影が不十分でも、レタッチで何とかなりますか?
A. 形状と面の情報が写っていれば多くは調整可能です。ただし、白飛びして完全に情報が失われた面は復元できません。露出違いで複数カット撮っていただけると、対応の幅が広がります。

Q. 図面やCADデータはあった方がいいですか?
A. あると精度が上がります。実物の形状を確認できる資料があれば、映り込みの整理で迷いが減ります。

Q. 傷や打痕は消してよいものですか?
A. 製造工程上どうしても出る微細な痕は整えますが、製品仕様に関わる特徴は残します。判断に迷う箇所は都度ご確認いただいています。

Q. 納期の目安は?
A. 素材や点数によって幅がありますので、お見積もり時に個別にご案内しています。

Retouch Studio SANKAKUYANEでは、工業製品・金属製品の質感表現を得意分野としています。